2013年7月1日月曜日

僕がラップを始めるときに知っておきたかった5つの事

時間が経つのは早いもので、7月末で、ラップを始めて3年になります。
僕は、人に曲を聴いて貰えるようになるまで(ある程度、名前が知られるまで)の下積みや苦労なんてものは、少なければ少ないほど良いと思っています。

「マイクを持たせてもらえるまでに1年間のパシリをした」なんていうのは、昭和にでもタイムスリップしない限り美談でも何でもありませんし、ライブだけ頑張って、契約を勝ち取って初めて音源を録ると言うのでは、今の時代、その音源がウェブ上に溢れるフリー音源に勝るものになるとは、到底思えません。


僕の場合は、色んな人に教えてもらいながらも、わりと独学でやってきたので、余計な時間が掛ったなと思う部分もあります。

ラッパーはアーティストイメージとかもあって、こういうのを書くことってないと思うのですが、ラッパー以外の人が書けるものでも無いですし、同じような境遇の人がいるかもしれないので、自分の経験の範囲で、多くの人に曲を聴いて貰うために、役に立ちそうな情報を書いておきたいと思います。


とは言っても、そんなに動画が伸びまくってる訳でもないので、全部が全部参考になる訳では無いと思いますが、一部でも役に立てば幸いです。


1.音質には拘った方が良い

僕自身、最初の1年くらいは1980円のスカイプマイクで録音していました。

たしかに「音質が悪くてもヤバいものはヤバい」のかもしれませんが、それは音質が良ければ更にヤバいでしょう。それに、大半の人は"音質が悪くてもヤバいもの"は作れません。僕が、音質最悪だけどヤバいなと思ったのは、今思い出せる限りでは『HAPPA SCHOOL』くらいです。

僕の場合、はっきり言って、スカイプマイクで録っていた期間は、時間の無駄だったと思っています。ラップのスキルやリリックの面でなら少しは上達していたのかもしれませんが、そもそも録り音が迷子なせいでミックスも上手くなりませんでした。

自分の中学生の頃を考えると、中学生の方なんかは、お金に余裕が無いかもしれませんが、20,000円弱あれば、今の僕くらいの宅録環境は整えられます。

価値観は本当に人それぞれだと思いますが、ラップや曲作りはハマると、他に2万円で買えるものよりも、余程楽しめますよ。



参考までに、僕が使っているのは

オーディオインターフェース:Steinberg CL1
(たぶん1万円ちょい)


コンデンサマイク:C1
(3000円くらい)

コンデンサマイクは管理が大変と言われていますが、僕の場合はインターフェースに繋ぎっぱなし、ハンカチも掛けずに放りっぱですが、全然壊れません。(もしかしたら録り音が劣化したりしているのかもしれませんが、、笑)

中高生の頃は、時間は無限にあると思っていましたが、大きくなると時間は貴重なものだと気付かされます(笑)。

1時間に少なくとも1000円の価値があると考えると、1曲作るのに(リリックを書く時間も含めると)4時間ほどは掛る訳ですから、この先、5曲以上作る予定があるなら、その時間を無駄にしないためにも、宅録環境を揃えてしまっても良いのではないかなと思います。

ミックスに関しても、せっかく曲を作るのにミックスが微妙だと、聴いてもらいにくくなり、もったいないので、人に頼むか、もしくは最低限のミックスは自分で出来たほうが良いでしょう。

 (追記) ※NOBYさんがこちらに凄く丁寧で詳しいミックス手順を書いてくれてます!


僕の場合は、声を張って録る場合はコンプを-19~24くらいで、声を小さめで録る場合は、コンプを-26~28くらいで掛けてます。

あとは、ノイズ除去を必要に応じて掛けて、イコライザーを画像の感じで掛けてます。

録ったときの声の高さにもよりますが、
声が籠ってるなと感じるときは、62Hz以下をもうちょい削るか、1kHz, 2kHzをちょい上げます。
逆につんつんしてて耳に痛いなと感じるときは、2kHz, 4kHz, 8kHz, 16kHzあたりを削ったりしてみながら様子をみます。


音質に拘れと言っておきながら、録音とミックスには、Sound EngineとAudacityというフリーソフトを使ってるので、少し分かりにくいかもしれないですし、プロの方からするとコイツなに適当なミックスを語ってるんだって話かもしれないのですが、ミックスに関して調べても中々書いてあることが分からないので、僕はこういう感じに落ち着いています。

リバーブは、長めのリバーブを適当にかけてます。

凄く適当なイメージで言うと、インストがトラップ等のスカスカ系のものだと気持ち弱めに、EDMなどインストが物凄くぶわぁっとしてたら割と強めに掛けてます。

リバーブは気持ち強めに掛けると高級感と迫力が出る気がします。

ただ、最悪リバーブが無くても、ちょっと素朴な感じの音だなと思うくらいで、致命傷では無いので、最初は遠慮がちに掛けたほうが良いかもしれません。逆に、強すぎると気持ち悪くて聴けたものでは無いので要注意です。

あと、とても大事なのは、ラップのアカペラと、インストの音量のバランスですね。これは一度ミックスしてから、少し時間を置いて聴き直してみることをお勧めします。意外とアカペラが小さくてラップが聴きとりづらかったり、アカペラが大きくてうざかったりします。僕はミックスに使うヘッドホン以外に、もう一つ外出用のヘッドホンでも聴いてみて、バランスが変じゃないか確かめてます。

イヤホンでミックスしてたときは本当にダメダメだったので、イコライザー等の感覚が分からないうちは、少なくとも2000円くらい以上のヘッドホンか、きちんとしたモニタリングスピーカーをお勧めします。

コンプが掛っていて、アカペラ&インストの音量バランスが変で無ければ、音源的に聴いてて不愉快ってことはないと思います。


フリー音源を出していく上で大切なのは「物凄く音質が良いこと」に拘るというよりは、「最低限、聴いていて不愉快で無い程度の音質で出すこと」に拘ることだと思います。

ミックスに関しては、本当に分からなかったので、ネットラップ周りのたくさんの人に質問してきました。みんな快く教えてくれたので、本当に良いシーンだと思いますね。


2.ラップで上達するには、自分の声を聴きまくった方が良い

自分の声や音源というのは、最初のうちは恥ずかしくて、余り聴きたいものではありません。



もっとカッコいい声で、イケてるラップをしたはずなのに、とガッカリすると同時に、何だか気持ち悪いなと思って恥ずかしくなるものです。

僕も、自分の声は、ZEEBRAやY'sのようなインパクトも無いですし、ヘナヘナだし、ずっとコンプレックスでした。

しかし、それを他人に聴かせる訳ですから、恥ずかしくても何でもいいので、とにかく自分でもしっかり聴くようにしましょう(笑)。

「しっかり声を張ってラップしろ」とか「感情をこめて」とか、世の中には色々な情報が出回っているかと思いますが、僕が100%正しいと考える原則は「色々なパターンを自分で録って、聴いて、試したうえで、一番しっくりくるものを使う」だと思います。

脱力したもの、声を張ってみたもの、声の高さ、感情を込めたもの、とにかく色々試して、1人で赤面しながら聴くと良いと思います。自分でどれだけ聴きかえしても恥はかきませんが、1回アップロードすると皆が聴きますので、黒歴史になります。


とりあえず、「親が隣の部屋にいます」的なボソボソ声なのに、ちょっと力んでカッコつけたようなフロウがダサいことは確実なので、それだけは避けると良いと思います。

僕の場合は、声が細いことがコンプレックスだったのですが、ちょっと喉を絞ってべったりとした詰まったような声が出せるようになってから、わりと気に入ってます。

口先だけで声色を作ろうとすると気持ち悪くなることが多いので、喉で声を作るイメージで色々試すと良い気がします。

Jay-ZやSoulja Boy、Lupe Fiascoなんかも、そんなに恵まれた声を持っている訳ではないですが、カッコいいラップをするので、被せの入れ方など、僕はかなり参考にしています。(Jay-Zは被せでラップの迫力をかなり補ってると思います。)

僕が最近ふと思いついて試してみて良いなと思ったのは、被せにめっちゃディストーションかけて、聴こえるか聴こえないかくらいの小さい音量で被せたりとかですかね。


3.動画にも拘った方が良い

これは動画サイトの話になりますが、動画にも拘った方が良いです。

最初の頃は、何故かストイックにペイントでリリックを書いた画像のスライド形式の動画にしていたのですが、良く考えると伸びるはずがありません(笑)。



動画をつけるのが面倒だという方は、繰り返すようですが、1曲に4時間ほど掛けて作る訳ですから、動画をケチるともったいないです。(僕も、あまり人の事は言えないですが。笑)

動画に頼って、曲のクオリティ以上に評価を得ることが恥ずかしいことだと思われているなら、その認識をただすべきです。「動画に頼って再生数を稼ぐこと」は何も恥ずかしいことではありません。というよりも、再生数を稼ぐために行う施策は、基本的に全て恥ずかしくありません。

(僕はYoutubeにあげてる"Back to the Future"で、去年末の選挙の時期に合わせて、Google Adwordsのおすすめ動画広告と、Trueview広告を試したことがあります。二次的なバズが全く起こらなかったこと、2000円かけて600再生くらいしか増えなかったこと、その大部分が曲序盤で離脱していたことから、割に合わないと判断しましたが。)

「曲だけで評価されるべきだ」等、プライドが邪魔するのであれば、冷静に、自分が人の曲を聴くときの「純粋なリスナーの気持ち」になって考えてみるべきです。

3分程度の間、1枚絵が表示されているだけよりも、動画があったほうが楽しいですし、分かりやすいのは、疑う余地もありません。

「曲だけで評価されようとするストイックさ」を求めているリスナーは居ませんし、もし貴方がそう考えているなら、それは貴方が「微妙な曲の癖に動画のおかげで伸びている」と他のラッパーに叩かれるのを恐れているだけです。

それなら、動画を使わない事ではなく、そう言われないレベルの音源を作ることで解決を図るべきです。

これは様々な場面で言えるのですが、ラッパーの無駄なストイックさは大概独りよがりです。



さて、動画の話に戻ります。
PVを撮ってもいいのですが、人手や時間の問題もあると思います。

手軽なところでオススメするのは、Youtube等から適当な動画をぶっこ抜いてきて、曲に貼り付けて、PVっぽくすることです。今の時代は、良い素材が溢れていて、それをどう見つけてきて組み合わせるかというセンスが問われているらしいので、バンバン使ってしまいましょう。始まりと終わりを意識して、良い部分を切り抜きます。


僕が思うには、動画の色合いというか、動画全体のカラー感(?)は、インストに合ったものを選ぶと良い気がします。

あくまでも雰囲気ですが、サウスなトラップであれば黒と金色っぽい動画、暖かいビートであれば黄やオレンジっぽい動画、スクリューなら紫っぽい動画、などなど。当然、動画の内容はリリックの世界観に近いものを探します。



人が死んだり、血が飛び散ったりといったような、不愉快な感情を覚える人が多いであろう動画は、必要が無ければ避けたほうが良いです。


きちんとしたPVを作る場合は、構想やストーリーなどあると思いますが、ササっと作るなら、3分の曲であれば、3分のプレゼンを、分かりやすく魅力的に見せる資料を作るイメージで動画を準備する感じです。

微妙なアー写っぽい画像の1枚絵とかも避けたほうが良いと思います。
もちろんアー写を使うことで、アーティストとして印象に残すことも大切なのかもしれませんが、「微妙なアーティスト」という印象を残すよりは、「良い感じの曲」という印象を残したいところです。プレゼンするときに、自分の写真をパワポでずっと映す人はいないでしょう。ラップをしているのであれば、それよりも伝えたい事があるはずです。

僕がちゃちな1枚絵や、ペイントで作った変なフォントの文字が詰まった画像のスライドではなく、Youtubeから拝借した動画を使い始めたのが、「S on my Chest」や「強がりの唄」あたりからなので、反応からしても、動画であるべきなのは間違いないと思います。


また、ニコニコ動画であれば、投稿者コメントで下の部分に小文字でコメントが打ち込めます。
この機能を使っても使わなくてもいいのですが、リリックは書いた方がいいです。

1枚絵、リリック無しの動画を、パソコンの前に座って聴いている姿を想像すると、まず自分だったら最後まで聴きません。そしてそれは、聴いてくれる人たちも同じなのです。



最近は、リリックをタイミング良くポンポン出していく動画(リリックビデオ)というものも増えているらしく、Kendrick LamarのRecipiなどもリリックビデオになっているのですが、こちらの場合は、シンプルに作るのがポイントだと思います。

フォントも背景もシンプルに、見やすく、ストレスや違和感が無いように作ると、きちんと曲の内容を評価して貰えます。


曲の内容云々は抜きにして、凄くテンポが良くて、見やすいリリックビデオで参考になります!


4.ラップは自由。ラップするときはラッパーであるべき。

これは持論なのでサッと読み飛ばしてください(笑)。

90~00年代がどうであったのかは分かりませんが、僕の経験上、こういうことをラップするべきっていうのは本当に無い(どういうラップをしたら受け入れられないとかは特にない)です。

最初の頃は、ヒップホップとして正しく評価されるものをやろうと凄く考えていました。


でも、変なことをラップしててもイケてる人は評価されてると思いますし、ポップだからリスナーから非難されるという事も殆ど無くて、(どんなことをラップしていても、当然、他の価値観が違うラッパーからディスされることはあると思いますが)、良い評価であれ、悪い評価であれ、シーンからの評価というのは、基本的には、単にラップの上手さ、曲の完成度、リリックの面白さの問題な気がします。




変に無難にまとめた所為"等身大のラップ"よりも、自分が考えてることや、自分の価値観、自分なりの拘りの表現を、きちんと研ぎ澄ましてリリックに落としたものが、"スワッグ"だし、カッコいいと思います。

人と生きていくための普段の等身大の生活の方こそ、社会に適応するために、無難な殻を着て"フェイク"として生きているのであって、みんな中身や考えてることは意外と面白くて、それは"リアル"で"スワッグ"なのです。

今のシーンのラッパーの評価のされ方を見ていると、この"スワッグ"がかなり基準になっているなと思います。


5.雲の上の存在なんていない

ラッパーはラップするときは、雲の上の存在かのように、好き放題ラップするべきです。

しかし、矛盾するようですが、雲の上の存在なんて、この世に居ません。現世の大部分は雲の下にあるのです。




僕は、ニコニコ動画にラップを投稿しはじめたとき、いわゆるニコラッパーの中でも、雲の上の存在だと思っていた人がたくさんいました。でも、今では、そういった人たちの多くと曲を作らせてもらっています。そうした中で分かったのは、当たり前ですが、雲の上の存在に思えた人たちも、カッコいいラッパーを見つけたら一緒に曲を作りたいと思っているということです。

僕は、凄く良い曲が作れていて、誰かに参加してほしいなと思った場合、相手が有名で、ちょっと今の自分ではダメかなと思っても、お願いしてみる方が良い気がします。もちろん断られることのほうが多いかもしれませんし、レコード会社などに所属されていて、事務所を通さないとダメ等の問題があるかもしれません。

しかし、基本的には、自分の場合を考えてみると、凄く良いものになりそうな曲に誘われると嬉しいですし、ビートメイカーの方に、カッコいいビートにラップを乗せてほしいと言われると、乗せたくなると思います。

諸事情で無理なときもありますが、明らかに微妙なラップや、やっつけ仕事の適当な曲などでなければ、誘われて不愉快なことはありません。

ちょっとラップが甘いし、今は一緒に作りたくないなと思っても、その後どうなったか気になって新作動画をチェックしたりもするものです。話の流れでちょっとネタにすることくらいはあるかもしれませんが、共演を依頼されたことを本心で馬鹿にすることは、まず無いです。

そして、それは雲の上の存在に思える人も同じなのです。と信じたいです。。。






他にラップする上で、困ってることとか、分からないこととか、何かあれば、分かる範囲で答えるので、いつでも訊いてください。駆け出しの面倒くさいところを突破して、少しでも多くスワッグなラッパーがシーンに増えるといいなぁと思ってます。

なんだかんだ大事なのはリスナー視点だと思いますし、多分イケてるラッパーは、みんな自分が自分の一番のリスナーなんじゃないかなと思ってます。